宇宙SF小説の名作「燃える傾斜」を紹介してみる

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「あなたの再出発をドリーム保険で!」―このうさんくさい広告にシロタ・レイヨはとびついた。
恋人と職を同時に失った彼に、今の世界に対する未練などありはしなかったのだから。
しかし保険によって別世界に送りこまれた彼が目にしたのは地球よりはるかに高次の文明を誇るエリダヌ人の世界だった!
彼らによれば、銀河系を存亡の危機に陥れる戦いが始まろうとしているというのだが…。
(アマゾンより引用)

燃える傾斜

『燃える傾斜』は、『ねらわれた学園』の著者として知られる眉村卓先生による宇宙SF小説です。
オリジナル版の刊行は、先の東京オリンピックの前年に当たる1963年。

当時は日本SFの黎明期で、
市場として成熟していないけどの清新さや活気にあふれてた、らしい。

昔の作品の方が、現代の作品に比べて洗練されている度合いでは劣るけど、
無骨ながら骨格がしっかりしていたと思う。

この作品もその系統に属するものであり、
宇宙の命運を握る宇宙空間での戦闘とか、
見どころの多い作品です。

眉村先生の特徴としての「組織の中の個人」


眉村先生の作品の特徴として、「組織の中の個人」という視点があります。

最初から作家として花開いたわけではない眉村先生は、
専業作家となる前の就業経験から、組織人的な視点を持ち合わせています。

そのため、先生の作品の主人公は、『ねらわれた学園』等のジュブナイル作品を除くと、
組織に属しているケースが多く、その中での個人としての動き・ありようというものがポイントになってくる。

これは後年の『司政官』シリーズに顕著だが、処女長編である本作でも、すでにその視点が登場している。

ストーリーが始まった時点では、主人公は未来社会の会社員である。本人としては普通に仕事をしているつもりであったが、予想外の降格人事などから辞職を選択し、別の世界での生活を求めたことから、彼の運命は大きく変わっていく。

宇宙の命運を懸けた異種族との激闘

物語の後半は、宇宙の命運を懸けた異種族との宇宙戦闘がメイン。

宇宙はエイバアトなる正体不明の異種族によって席巻されつつあり、
エイバアトとの和平の道は閉ざされている。いわば、倒すか倒されるかしか無い、究極のシチュエーションだ。

そんな中、エイバアトに対抗する勢力のリーダー的存在となった主人公は、
地球の兵力も加えつつ、エイバアトを撃退しようと努めるのだが……。

地球軍の壮絶な戦いぶりや乾坤一擲の賭け、そして戦いの思わぬ決着などは、
クラシカルでありながら、現代から見ると、ある意味、斬新な展開となってます。

物語の最終盤に訪れる、主人公個人のドラマの帰結も見逃せない。
古い作品だけど、昔の作品ならではの魅力にあふれている一作です。