人口わずか千三百、三方を尾根に囲まれ、未だ古い因習と同衾する外場村。
猛暑に襲われた夏、悲劇は唐突に幕を開けた。山深い集落で発見された三体の腐乱死体。
周りには無数の肉片が、まるで獣が蹂躙したかのように散乱していた――。
闇夜をついて越して来た謎の家族は、連続する不審死とどう関わっているのか。
殺人か、未知の疫病か、それとも……。超弩級の恐怖が夜の帳を侵食し始めた。
(アマゾンより引用)
スペンスドラマのような謎解きからスタート
小野不由美の屍鬼はサスペンスドラマのようなタッチで始まります。
山村の外場村にまん延する奇病、最奥の部落に暮らす老人のバラバラ死体。
寺の僧侶と病院の医師が突然起きた異変の謎を追います。
次から次へと村人が死んで、村が異常な状態に陥っていることが分かりますが、
村人たちは不都合な真実に目を背け、決して直視しようとはしません。
現実に異常事態が起きたとき、こういう態度を取り、事態を悪化させてしまうことはよくあるやつです。
筆者はそんな状況をただひたすら淡々と描いていきます。
スティーブン・キングの名作「呪われた町」のオマージュ作品なんだけど、
舞台を日本の山村に移して、リアルなタッチで恐怖の謎解きが進んでいきます。
怖感を倍増させたゾンビの要素
吸血鬼を描いた作品だけど、動物に変身して、姿を消すような映画のドラキュラとは全然違う。
死後、墓からはい出すゾンビの要素を取り入れ、日本の山村に合った現実味を持たせました。
このアイデアがこの物語のリアルさをより際立たせて、恐怖感を倍増させてる。
村の医師はやがて原因が吸血鬼であることを突き止め、吸血鬼退治に乗り出します。
村人の前で吸血鬼の存在を暴き、今度は村人が吸血鬼狩りを始めます。
そこから先は戦争映画かアクション映画のような感覚で、ストーリーが進みます。
筆者のタッチは後半、映画化を意識したような感じに変わって、読むものを引き込んでいきます。
間の恐ろしさもまざまざと
謎の奇病と相次ぐ村人の死におびえる人間側のドラマとともに、
人間の生き血をすすらないと生きていけない吸血鬼の心理も大胆に描いています。
小説に奥行きを持たせて、読む者を引き込む。
狩る側の吸血鬼が実は少数派で、本当は人間を恐れていること、
反撃に出た人間が吸血鬼以上の残虐な行為を平気でやっていくところは、
人間の怖さをまざまざと見せつけられる。
最後は吸血鬼と化した僧が吸血鬼の少女を伴い、村を逃れていきます。
日本の農村ではよそ者が入り込み、好き勝手を始めると、
村人が一致して追い出すことがよくあったといわれます。
今も田舎暮らしに憧れて移住した人が移住先を追われることが少なくないようです。
そんな閉鎖的な村社会の実情を皮肉ったように感じられた。
まとめ
全体的に暗い作品で日本の村社会の怖さが際立っていた。
ちなみにこの作品は漫画にもなりました。
吸血鬼もの大好きなんですよね。
子供のころ初めて読んだ小説が
児童小説で有名な「ダレンシャン」だったのが関係してるのかな。