不思議な世界観にひきこまれるホラー小説「夜市」を紹介してみる

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夜市で弟を売る兄

ホラー小説といえば、恒川光太郎先生の「夜市」を忘れてはならない。

ホラー小説大賞を受賞した作品です。
本の趣味の合う友達にすすめられて読んで、
最初のページで不思議な世界観にひきこまれて一気に読破しました。

妖怪たちが店を出す「夜市」は、何でも売っていて、何かを買わないと出られない場所。

そんな夜市に迷い込んだ幼い兄は、野球の才能を買ってそれと引き換えに弟を売ります。

現実世界では弟は存在しなかったことになっており、兄は順調に野球のヒーローになるけど、
弟を覚えている兄はずっと罪悪感を感じています。

高校生になった兄は、弟を取り戻すために夜市に戻ってきて妖怪と取り引きをする…というお話です。

行ってみたい、幻想的な世界

著者の恒川先生ははこれがデビュー作だそうですが、文章がとてもきれいで、
文字から夜市の空気や温度など雰囲気を存分に感じられるので、
ドキドキしてどんどん読み進めてしまう。

妖怪の言うことや売っている物、何かと引き換えでなければ弟は買い戻せない絶望感など暗い気持ちになる内容に見えるけど、
風景描写が素晴らしくて、やっていることは恐ろしいけれど不思議な賑わいのある、
幻想的な夜市を想い浮かべることができます。

本のカバーの絵も素晴らしいです。
朱色のグラデーションと金魚が妖しい雰囲気を醸し出していて、
怖さを感じるのですがなんだか切ない感じもして、本の内容にぴったり合っています。

本棚を見た時にこの絵を見ると、つい夜市を読み返してしまいます。

ホラー嫌いにもおすすめ

ちなみに、「夜市」のあとに収録されている「風の古道」も偶然迷い込んでしまった不思議な世界のお話で、
こちらも風景描写が素晴らしくて幻想的で切ないストーリーです。

「夜市」も「風の古道」も、怖さを感じるのに幻想的で、
こんな世界には迷い込みたくはないのだけれど、
読んでいると「この世界に行ってみたいかも」という不思議な気持ちになります。

怖いだけじゃない日本の古い怪談話を読んでいる気分になる。

一応くくりはホラー小説だけど、恐怖をあおる内容ではなくて、
描写のきれいさや登場人物の心の動きがよく感じられる文章なので、
ホラーがあまり好きではない方にも全力でおすすめできる一冊です。