スティーヴン・キングのおススメ小説「ゴールデンボーイ」を紹介してみる【人生の転落】

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転落の夏

スティーヴン・キングが1982年に発表した『恐怖の四季(邦題)』という中編小説集の中の1編です。

この中の一つが映画化され大ヒットした「スタンド・バイ・ミー』です。

この中編小説集は、英語の原題が「Different Seasons」となっていて、
ホラー色が薄い作品集なのですが、『ゴールデンボーイ』だけは心理ホラー。

読みやすい長さだし、キングの筆力の素晴らしさでぐいぐい読み進めますが、
読むのが辛くなっていくほど怖いです。

怖いから先を読まずにいられないけど、救いようのない怖さ。

「転落の夏」という副題がついていて、
誰からも愛される将来ある少年(ゴールデンボーイ)が転落してゆく物語です。

ナチの元将校との出会いから始まる

家庭環境も申し分なく、成績も優秀な明るい高校生のトッドは、
友人の家で古い雑誌を見つけ、ナチの残虐行為についての記事を読んで興味を覚えます。

まもなく、まったく偶然に、その雑誌で見たナチスの元将校に出会います。

この老人は過去を隠してアメリカでひっそりと暮らしていたわけですが、
トッドは、ナチの残虐行為についての少年らしい好奇心から老人に近づき、
半ば脅すようにして、ナチ時代の体験を語らせます。

最初は口が重かった老人も、次第に過去の行為を語ることに、
そしてその話を聞くトッドの反応に快感を覚えるようになっていきます。

老人がじわじわと残虐さを取り戻していく一方、
出会いの最初はトッドの方が優位な立場にあったのに、
精神的に圧倒されていく…その過程がリアルです。


自分の中の変化に危険を感じながらも、トッドは中毒にかかったように
、老人の家に通うことがやめられなくなり、優秀だった成績も落ちてゆきます。

周囲もトッドの様子がおかしいと感じ始める。

そして… 現実的にはこんな出会いはまずありえませんが、
思春期の少年の危うさのようなものが克明に描かれていて、
案外些細なことがきっかけで救いようのないところまで堕ちてゆくのかも、と思わせられます。

10代の男の子を持つ親なら、読みながら悲鳴を上げるかも。

邦訳の文庫版には、「春は希望の泉」という副題の『刑務所のリタ・ヘイワース』も収録されていますが、
こちらは救われるストーリーです。まず『ゴールデンボーイ』を読んで、
その後『刑務所のリタ・ヘイワース』を読むのがおススメです。